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大濠公園能楽堂

設計部の上本です。

以前のブログで、冨坂建設の設計部では定期的に、建築の知識やデザインへの造詣を深める勉強会を行っているというお話をしました(そのブログはこちら→コンクリートの可能性)。
11月の勉強会では、福岡市の大濠公園内の建築の見学会を行いました。

・大濠公園能楽堂 大江宏建築事務所
・福岡市美術館 前川國男建築設計事務所
・大濠テラス リズムデザイン

その中で、大濠公園能楽堂についてご紹介したいと思います。
大濠公園能楽堂は、福岡城址の外濠の一部を利用してつくられた、水と緑豊かな大濠公園の北側に1986年に竣工した、地下1階、地上1階の鉄筋コンクリート造の建物です。
設計者の大江宏は、モダニズムと日本の伝統様式とを決して融合することなく「混在併存」させた建築意匠で知られ、香川県文化会館、伊勢神宮内宮神楽殿、国立能楽堂などの作品があります。


能楽堂は用途としては劇場の一種であり、さまざな劇場建築で、ホールに至るまでのアプローチ空間(前庭、玄関、ホワイエなど)に工夫が凝らされ、芸術に触れる心の準備や日常から非日常へのスイッチオンができるような空間づくりが見られます。

大濠公園能楽堂では、天井が低く抑えられた玄関広間から、隣接する高天井の広縁の先に公園の清々しい池の景色を見通すことができ、その先に続く歩廊、そして能舞台へ、期待とともにゆっくりと誘われるように空間が流れていく構成となっています。

広縁は、午前中に行ったことで、光と影のコントラストが非常に美しく、まるで宗教建築の様相でした。
そしていよいよ見所(けんしょ:客席のこと)へ。
能舞台はもともと屋外に造られており、現在のように舞台と見所が大きな一つの建物の中に入った「能楽堂」という形になったのは明治以降のことだそうです。
初めて能舞台を見学したのですが、舞台が見所に向かって斜め前に張り出した独特なもので、客席が左右対称でないことに大変驚くとともに、非常に日本的であり、ダイナミックな印象を受けました。
静謐な空間であるのに動きを感じます。
また、見所は「正面」や「中正面」、「脇正面」などのブロックに分かれており、選ぶ席により舞台の角度や見え方が変わります。


向かって右側が能舞台、左に延びているのは橋掛りと言いまして、演者が出入りする通路であるとともに、舞台の延長としての重要な演技空間でもあります。
この辺りも独特だなと感じました。

能楽堂で一番印象的だったのは照明です。
仕事柄、ホテルや商業施設で洗練された照明計画を施された空間に触れる機会は多い方ですが、間接照明の工夫とか、器具を目立たなくするとか、そういった技巧的なことではなく、光の強さ、光と影のバランスが大変心地よく、心に訴えかけてくるものを感じました。
技術者として恥ずかしいことなのですが、その理由は、空間の魔法なのか?ちょっとわかりませんでした。
今後、もっとたくさんの建築に触れることで、見えてくればいいなと思います。

最後に、能について。
能は室町時代に成立した日本の代表的な古典芸能であり、面と美しい装束を用い、能舞台で上演される歌舞劇である。
代表的な物語の登場人物は「源氏物語」、「伊勢物語」などの古典文学に登場する優美な男女の霊、「平家物語」で語られる源平の戦で死んだ武将の霊、地獄に堕ちて苦しんでいる男女の霊など幽霊が多い。
また、松や桜など草木の精、各地の神々、天女、天狗、鬼など、人間以外のものも多く登場する。こうしたものたちが人間の世界に現れ、人間と交渉を持つことで物語が展開される。
(参考サイト:公益社団法人 能楽協会)

熊本には、段山御旅所能舞台、菊池松囃子能場、出水神社能楽殿、河尻神宮能舞台、藤崎八旛宮能舞台の5つの能舞台が現存し、御神事能などが奉納されています。
中でも出水神社能楽殿(写真)は、水前寺成趣園内にあり、1986年に細川家家臣の松井家にあった能舞台を移築したものです。


出水神社能楽殿(公益社団法人 能楽協会HPより)

現在、春秋大祭での御神事能のほか「出水神社薪御能」が毎年8月第1土曜日に奉納されていて、熊本の夏の夜を彩る風物詩であると、能楽協会のサイトで紹介されていました。
今後、熊本の能舞台も訪れてみたいみたいものです。